会長コラム

©AkiraKinoshita

 

                                          菅野由弘

 「経済が発達すると音量が大きくなる」。音楽史の表舞台には決して姿を見せないが、底に流れる真実である。

 非常に単純な話で「大音量は人類の夢」だったのではないだろうか。
人間は、音量を大きくするために楽器を改良する。もちろん、ただ大きければ良いというモノではなく、美しくなければならない。が、歌にせよ、器楽にせよ、人数を増やすことに喜びを感じてきたと思われる。経済が豊かになると、編成を大きくする。

 例えば、貴族のお抱えオーケストラ。オーナーの経済力が増したら、真っ先に編成を大きくする。経済的に

 豊かになったので、編成を減らした、という話は先ずなかったと思われる。合唱然り、室内楽も然り。小は中になり、中は大になり、大は巨大になり、巨大は超巨大になる。最近はそこにテクノロジーの発達が加わり、PAと呼ばれる電気的増幅により、東京ドームの隅々まで咆えさせる大音量を手に入れた。その一直線に発展してきた原理が、今回のコロナウィルスの世界的感染拡大によって、否応なく方向転換を迫られることになった。

 「人類の夢」は一時的にせよ打ち砕かれた。そんな中で、もう一度、音を大切に紡ぎ出し、顔が見える人たちと共有する、音楽を見直してみる、そして来たるべき日に備えるという、別な夢を育てる機会にしてはどうかと思うが、いかがだろうか。それは経済原理には反する。元々経済原理に乗っているとは言いがたい活動であり、これ以上外れて成り立つのかどうか、という心配はあるが、きっと新たな豊かさを生むと信じて「小さな夢育て」を、会員である作曲家諸氏とともに創って行ければと思う。音楽は「不要不急」か?と問われれば、当事者としては、そうではないと信じつつも、「不要」ではないが「不急」であることは認めざるを得ない。全てが停滞している今だからこそ、「不急」なものが必要とされる時までに、音楽を創り、一気に発表できるように準備をお願いしたい。