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   第34回こどもたちへレポート

                                                                   西森久恭
    「第34回こどもたちへ」の出品依頼を頂いたのは、ちょうどカナダで開催される
   ISCM大会を前に旅支度を行っていた時であった。世界規模の現代音楽祭を前に、頭
   の中がすっかり所謂”現代音楽”に染まっていた私にとって「子どもがレパートリーに
   したくなるような」という企画コンセプトは瞬時に想像し難く、返答にはやや時間を
   要した。

    子ども達を惹きつけられる音楽とはどのようなものだろうか。凝った技法を駆使し、
   仮に大人基準の評価を得られたとしても、対象たる子ども達の琴線に触れられなけれ
   ばあまりに寂しい。まずは自分の視座を彼らに合わせなければならない。そこまで考
   えて、今の子ども達の目に映る世界と自分自身がかつて視ていたそれが、同じとは限
   らないという事に気が付いた。わずか数年であらゆる生活様式が大きく様変わりする時代だ。20年も昔の、しかも無
   意識下で美しく補正されてしまっているであろう記憶と、現在を生きる彼らとの間にはどれほどの齟齬があるのか。

    結局、出国までに答えをだすことはできなかったが、バンクーバー郊外のとある広場に置かれた先住民のモニュメ
   ントを見て、ふと今回定められたテーマを思い出した。幼い頃に家族で旅した初めての土地、初めて足を踏み入れた
   世界の街角、そこで湧き上がった好奇心は今まさに自分が感じているそれと同じ物なのではないか。見慣れぬ物に触
   れた瞬間湧き上がるこの衝動は、人によって差はあるものの誰もが共通して感じ得るものではないか。練習嫌いであ
   まりピアノへの関心を持てずにいた幼少期、それでも子ども心に魅力を感じた音楽はどれも非日常的な珍しさを纏っ
   ていた。

    好奇心をくすぐればいい。ただし子どもの領分で。そう思い至った瞬間、最初に浮かんだのがクリスマスであった。
   大人になった今では意味も印象も随分と変質してしまったが、かつては街がその空気に満たされただけで心が躍った
   ものだ。大人よりも長く感じる一年の、僅かな期間だけ訪れる非日常、異文化により演出された冬の気配。そしてそ
   んな雰囲気をさらに凝縮させたような街角を異国で見かけたことを思い出し、ようやく最初の音を書き始めるに至っ
   た。

    本番が行われた紀尾井ホールは普段ピアノを人前で弾かない自分には過ぎた絢爛さで、内心場違いな気もしたが、
   好奇心旺盛な幼いピアニスト達が内装に目を輝かせているのを見て、これもまた「こどもたちへ」ならではなのかも
   しれないと、そう思った。


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