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余韻嫋嫋不絶如縷   中村典子
           
    
 余韻嫋嫋、と題された紀尾井ホールでのアンサンブル東
第20回記念定期演奏会が、松下功会長追悼の演奏会になるとは本当に思いもよりませんでした。
 演奏会は3世紀ローマで殉教した司祭、恋人たちの守護聖人聖ヴァレンタインの記憶の日2月14日に行われ、3月17日には幻となった西安と北京初演の2012
年のグランドオペラ《長安悲恋》が、天国の松下先生に東京藝大で届けられるとのことです。
 松下先生のベルリン留学集結成のアーティスト集団の名を譲り受けた東京藝大器楽作曲学生を主とするアンサンブル東風が、室内合奏、室内オーケストラ、箏とオーケストラ、邦楽合奏、そして和太鼓協奏曲《飛天遊》で、太鼓と箏の光が天地を結ぶ道程の緻密なプログラミングを通して、その名の始まりの響きへと私たちを連れてゆきました。一分間の黙祷に始まった演奏会は、冒頭の指揮なし日本舞踊を伴う西洋室内合奏《海へ、そして夢に》(2015) の東日本大震災復興の心の修景の真珠の響のまなざしの特別な時間
に始まり、そして詩曲《天空の光》の祈りで遠く東西を地続きに、近作の箏とオーケストラの《舞いあそぶ音に》の緻密で豊かなアンサンブルの律動に深く魅了させられ、後半冒頭指揮なし暗譜演奏の三絃と箏群の邦楽合奏《このこと そして・・・》(2017) の冴え冴えとした歌と特徴ある3+3+2+2+3の律動に、天地を結んだ飛天遊の和太鼓協奏曲の始まりの地のベルリンの記憶まで、生涯を貫くヴィジョンが、鳴り止んだ音がずっと残って消えない余韻が、絶えることのないしなやかな糸で世界をアジアの私たちへと繋ぎ続けています。横浜で、ソウルで、台湾で、そして私たち京都の ensemble clumusica の音楽祭アジアの管弦の現在にもたびたびおいでくださり、心より感謝を捧げます。世界各地の作曲家とつないでくださった松下先生、本当にありがとうございました。二日前の2月12日レクチャーとマスタークラスを京都芸大で持っていただいたイムジソン先生のアンサンブル東風定期初演のヴァイオリン協奏曲《終わりなき命の歌》のタイトルの如く、松下先生が天国で作曲され指揮されるオーケストラ協奏曲《余韻嫋嫋》が、絶えざること縷の如く、今まさに私たちの誰もの日月をも終わりなく命の歌で響かせ輝かせ始めているの
です。

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