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日本の作曲家2020 Bプロ 大井浩明ピアノリサイタル           門脇 治

 新型コロナウイルス感染拡大防止によるイベント中止が続いた中、いわば断行とも言える演奏会となったが、その背景に関わらず意義のある演奏会となった。主役はもちろん大井浩明氏。優れた現代作品発表の場には、これまでも多くのスペシャリストが存在しているが、彼の守備範囲の広さは異質である。そんな彼だからこそ、満を持した感のある演奏会であった。(移動自粛により来場がかなわなかった出品者がいたのは残念であった。)
(比べること自体無意味なのだが敢えて言うと)メシアンの「まなざし」やクラムの「マクロコスモス」に匹敵する篠原眞氏の《アンデュレーションA》と《ブレヴィティーズ》。これだけでも現代ピアノ音楽の堪能するに十分な内容であるのに、この2曲に挟まれる形で公募を含む強者だらけの6作品を演奏しきってしまうのだから堪らない。アルゴリズム系作品の割合が多いが、それぞれのコンセプトを実現させるための手段としてであり、作家の個性が明確に示されていた。初めて現代ピアノ音楽を耳にした聴衆がいたとしても飽きることなく聴くことができたに違いない。
 変奏や対比によって語ることのできる伝統の上に聳え立つ強靭な篠原作品。自らの感覚から新たな躍動感を芳醇に語る牛島作品。比較的聴きやすい部類かもしれないが、かと言って作家の意思が沸々と伝わる上野作品。独自の手法を用いて音楽よりも広いカテゴリーで捉えたくなる松本作品。様々な振舞いを破綻することなくまとめ上げる水野作品。機械と名乗りながらも大井氏の生演奏によってその意義を問う三輪作品。数学的に生成される音程が響空間を織りなす拙作。淡泊な曲の紹介を連ねたが、作品の深い読み込みと正確な演奏によって成立したこの日の作品群を言葉で語りきる事は出来ない。そんな体験を与えてくれた2時間超のプログラムをつとめ上げた大井氏に敬意を表したい。

                                                 

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