二宮 毅

1972年愛知県生まれ。笹川賞、名古屋文化振興賞、第1回EACA国際作曲コンクール入賞。札幌市、福岡市、韓国テグ市を生活と活動の拠点にする。日本の古典文学や伝統芸術に宿る情緒性を反映した作品は、アジア諸国の音楽祭や欧州各地で上演、放送されている。作曲集団KALEIDISM、日本創作歌曲研究会、福岡市国際作曲家会議を主宰。福岡教育大学教授兼副理事。2015年フランス・ボルドー音楽院レジデンス作曲家。

太古の海鳴り

鴨長明『方丈記』が言う河流のゆき着く海もまた、波の流転する無常が広がる。そこに続く生命の営みの連鎖は、およそ人類の情緒とは無縁な未分化に混沌とした抒情であろうか。潮騒響く住まいでの暮らしを始めてから、学生時代に愛読した『波の記譜法』(著:鳥越けい子、他)を無性に思い返すことがあり、いつしか新たな創作を模索した。貝殻に記憶された太古の海鳴りへ耳を欹てるごとき作品への帰結を夢想していたようにも思う。