松下 功
東京藝術大学、同大学院修了。ベルリン芸術大学に留学。以後86年までベルリンに滞在し創作活動を行う。86年、第7回入野賞受賞。98年に長野冬季オリンピック文化プログラム・オペラ『信濃の国・善光寺物語』や開閉会式選手入場の音楽を作曲。2000年、和太鼓協奏曲『飛天遊』が、ベルリンフィル・サマーコンサートで演奏され好評を博す。
アジア作曲家連盟会長(1999年~2004年、2014年~2018年)。日本作曲家協議会前会長。2018年9月逝去。
天空の祈り~とうとき命に~
〈花を愛でる〉、〈香を聞く〉という日本の美しい言葉と心。〈耳をすます〉というから〈音楽は心をすます〉であろうか。天から与えられた人の命に、心豊かにする言葉と音がいくつもあることの幸せを日々感じている。心に聴こえる音を追い求めたいと道を志して、はや数十年の歳月が過ぎ去った。その音、その響きは何なのか・・・・・苦悩の日々は変わらない。
そして3月11日はやってきた。自然の脅威の前に、人はなすすべもない存在であることを思い知らされた。未曾有の災害を受け、恐怖におののき、喪失感を味わい、力を失った。しかし、人にはその苦悩に立ち向かう生きる力を天から与えられていた。そんな姿を見ながら、私はただ〈祈り〉の気持ちを捧げるしかなかった。
被災された方々のこと、現代社会の脆さ、芸術が〈今〉何を果たせるか、私に一体何が出来るのか、多くの思いが脳裏を交錯した。
そんな思いの中、私は再び音を求め続けることにした。人の〈心〉に豊かで強い力を与えることが出来るのは、文化・芸術でしかないと信じて、いくつもの想いを積み重ねながら音を書きとめようとした。
桜の便りが届きはじめたころ《天空の祈り》は完成した。

〈とうとき命に〉仲間たちと共に、この音を捧げたい。
                      (初演時 プログラムより)